心理的安全性を高め、業務日誌で本音を引き出す運用設計
要約:失敗や迷いを安心して書ける文化をつくり、組織の学習 力を高める。
「日誌は書かせているが、本音が出てこない」「フィードバックを書くと、部下 が萎縮してしまう」。中小企業の管理職の方から、日誌とフィードバック運用につい てこのような声をよく伺います。
日誌 × フィードバックを組織学習のエンジンに変えるための 前提は、心理的安全性です。安心して失敗や迷いを書ける場であってはじめて、「活きた情報」が集まり、業務改善・離職防止・メンタルケアに役立ちます。
責めない・評価しない安全な場づくり
心理的安全性が低い組織では、日誌は「いいことだけを書く紙」になります。結 果として、
- トラブルやヒヤリハットが上がってこない
- 本当に困っていることが見えない
- 管理職のフィードバックが一方通行になる
という状態になり、せっかくの日誌が“形骸化した報告書”にとどまってしまいま す。
ここから抜け出す第一歩は、「責めない・評価しない」ことを日誌の前 提ルールにすることです。
「ナイス・バッドニュース」文化:失敗報告を称賛
早期共有を感謝することで、隠蔽を防ぎ、再発防止のナレッジを蓄積。
本来、マネジメントで一番評価すべきなのは、「悪いニュースを、早 く・正確に・隠さずに持ってきてくれること」です。
そこでおすすめしたいのが、「ナイス・バッドニュース」文化の導入です。
運用のポイント
- 日誌での失敗報告・ヒヤリハットには、まず「ありがとう」「ナイスキャッチ 」とコメントする
- 「なぜミスをしたのか」よりも、「なぜ早く共有できたのか」「それがどれだ け助かったか」に焦点を当てる
- 月次のミーティングなどで、「今月のナイス・バッドニュース」事例を全体共 有し、称賛する
“叱られない”を超えて、“報告すると褒められる”状態になる と、クレーム・障害・リスク情報がスピーディーに日誌へ上がり、組織全体の再発防 止力が高まります。
日誌を叱責の場にしないルール
深刻な指摘は対面で行い、日誌では承認・学びに特化。非同期コミュニケーショ ンの特性を尊重。
メールやチャットと同様に、日誌も非同期コミュニケーション の一種です。非同期で「きつい指摘」や「感情的なコメント」を受け取る と、受け手は防御的になりやすく、本音を書かなくなります。
そこで、次のようなルールを明文化することを推奨します。
日誌で「やらない」こと
- 感情的な叱責・人格批判
- 評価(査定)に直結するようなコメント
- 他メンバーの前での公開“お説教”
日誌で「やる」こと
- 「気づき・工夫・チャレンジ」の承認
- 学びの言語化のサポート(「ここの振り返りは良いですね」など)
- 「この件は対面で話しましょう」という予告程度の指摘
問題が大きい場合や価値観に関わるフィードバックは、必ず1on1や対面 の場を設けて、双方向で対話することが大切です。
日誌はあくまで「事実と学びを共有する場」と位置づけ、叱責・評価から切り離 すことで、安心して本音を書ける基盤ができます。
承認フィードバックはSBI法で具体化
「状況・行動・影響」に基づく短文フィードバックで、「見てもらえた」実感と 信頼を醸成。
承認フィードバックが抽象的だと、受け手は「その場しのぎ」「社交辞令」と受 け取りがちです。効果的な承認には、何を、なぜ評価しているのかを具体的 に伝えることが重要です。
ここで役立つのが、SBI法です。
SBI(Situation-Behavior-Impact):
– Situation(状況)
– Behavior(行動)
– Impact(影響)
の3つをセットで伝えるフィードバック手法です。
日誌コメントでのSBI活用例
- Situation(状況)
「今日のA社からのクレーム対応の 場面で」 - Behavior(行動)
「事実関係を先に整理してから、こ ちらの非を率直に認めた点が」 - Impact(影響)
「先方の感情を落ち着かせ、結果とし て契約継続につながりました。ありがとう。」
このように、2〜3行で構いませんので、
- どの場面で
- どんな行動を
- それがどんな良い影響をもたらしたか
をコメントすると、部下は「きちんと見てもらえている」「ここを続け れば良いのだ」と具体的に理解できます。
日誌フィードバックにSBIを取り入れることで、
- 承認の質が上がる
- 上司の期待値が伝わる
- 同じ行動を他メンバーにも横展開しやすくなる
といった効果が期待できます。
感情ログでメンタル変化を可視化
5段階気分スコアなどにより、焦り・疲労の兆候を早期察知し、適切なケアにつな げる。
業務日誌は、業務内容だけでなく、メンバーのコンディション把握ツー ルとしても機能します。そのために有効なのが、「感情ログ(気分スコア )」の導入です。
具体的な運用イメージ
- 日誌フォーマットに「今日の気分:1〜5」の選択欄を追加
– 1:かなりしんどい/限界に近い
– 3:ふつう
– 5:とても調子が良い/充実している - 補足欄として「一言コメント」(例:「原因:案件Xの対応でモヤモヤ」など )を任意入力に
- 管理職は、
– 低スコアが3日以上続く
– 急にスコアが下がる
– 同じ要因が繰り返しコメントされている
といったパターンに注意して見る
ポイントは、一日単位ではなく「一定期間のトレンド」で見ること です。
- 「最近ずっと2〜3で推移している」
- 「プロジェクトYが始まってから急に下がった」
といった兆候が見えたら、早めに1on1の場をつくり、仕事量・役割・人間関係な どについて丁寧に対話します。
感情ログは、メンタル不調や離職の“前兆”を捉えるレーダーと して、非常に有効です。
評価・人事とは切り離し、学習の場として守る
安心して率直に書ける環境が、質の高い情報収集と組織改善の基盤となる。
最後に極めて重要なポイントが、日誌と評価(人事・査定)を切り離す ことです。
もし社員が「日誌に書いたことが査定に響く」と感じてしまうと、
- ミスや迷いは書かない(または薄く書く)
- チャレンジよりも、無難な行動に流れる
- 上司にとって“聞きたい本音”ほど、日誌から消える
という事態になります。
実務での工夫
- 就業規則や運用ガイドラインに、「日誌の内容は原則として人事評価に直結させない」旨を明記
- 評価面談では、日誌の「結果」ではなく、「日誌を通じた学び・改善のプロセ ス」を評価対象にする
- 評価の材料が必要な場合も、
– 売上・KPIなどの数値指標
– プロジェクト成果物
を主とし、日誌は補足材料程度にとどめる
日誌を「正解を書く試験の答案」ではなく、「学びのメモ」と して扱うことが、心理的安全性を高め、質の高い情報と気づきが集まる土台になりま す。
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